野郎の気迫に押されちまったが、あいつ一体マジで何考えてんだ? | |
あのバカ、一人で全部背負い込もうとしてるのよ。……そういう考えが嫌いとか言いながら。 | |
っておい、まさかあの野郎、深王を始末するつもりなのか? | |
……最悪の場合、そうなることはわかってるでしょ? | |
そうか俺たちを最悪ケースに巻き込まないために……ってそれどう考えても無謀だろ! 深王とオランピアのコンビネーションに俺たちは歯が立ちそうもないんだぜ? |
(既に今回の作戦がいけそうな事は確認済だ。斬撃耐性のあるこいつに手詰まりにならなかった。 あとは俺の計算が狂っていなければ、サイコロの目が期待値に収束しさえすれば、勝てる) |
……前にゲートキーパーと戦った時のこと、覚えてる? | |
おう、あんときゃマジで終わったかと思ったけど、プログの作戦がハマったんだよな。 | |
キリンとの戦いも覚えてるわよね? | |
当たり前だろ、俺はまだまだ健忘症の年齢にゃ程遠いっつーの。 | |
あたしたち、あの作戦に絶対的に必要だった? | |
……あれ? |
(深王とオランピアは、完全分業体制のコンビネーション戦術を取ってきてる) |
(普通に戦えば深王にアタッカーが封じられ、オランピアにヒーラーが封じられる。 が、俺一人で戦うなら話は別だ。雲隠でリベレイション以外の攻撃は喰らわない) |
気がついた? どっちの時もあとは単に根気の問題で、あたしら抜きでも良かったの。 | |
ちょっと待てよ、確か野郎の作戦には分身を出すときの隙をカバーする必要があったはずだろ。 | |
ゲートキーパーは隙を定期的に作ってくれたし、キリンは普通に攻撃を回避するのを待つだけ。 | |
だからって深王とオランピアは無理なんじゃないか? | |
あいつ、キリンの戦でショーグンをサブに取ってたでしょ。 | |
ありゃ単にスキル稼ぎのためだっただろ。 | |
……ちょっとショーグンのスキルをみてみなさい。 | |
ん、こりゃあ…… |
(分身の隙は食いしばりで消せる。博打には違いないが、元の回避率を含めると五分以上だ。 万が一奴らがカウンターを持っていても、乱れ竜の陣はカウンターを掻い潜る) |
あのバカ、ずっと最終手段として一人で戦うことを考えていたに違いないわ。 | |
お前、いつそれに気がついたんだ? | |
ゲートキーパーと戦ったあたり。本当にやるとは思ってなかったけど。 | |
こんな事態になって、一人で戦いにいっちまったってか。 | |
悔しいけど、あたしたちじゃ戦力にならないわ。 |
(とにかく、分身をフルに出して雲隠まで持ち込む事が先決だ。 その状態に持ち込めば、事実上は詰んだ状態になっているはず) |
(全体ランダム攻撃は殆ど俺にとっては回復源のようなものだ。 それに最大三十連撃の乱れ竜の陣で、オランピアは数ターンで始末できる) |
(あとは手詰まりにならないように隊列を組み換え、分身を補充していく。 ……これでこいつは世界樹の呪縛から解放される) |
やっぱ絶対おかしいだろ、奴一人がイモ引いて、俺らが何もしないってよ! | |
それじゃあ聞くけど、何の躊躇もなく深王と戦えるの? | |
そりゃあ、迷いがないわけじゃないっつーか、迷いまくってるけどよ。 | |
あたしだってそう。そんなんじゃ、あいつの足手まといになるだけじゃないの!? | |
いや言いたいことはわかるんだが…… | |
……ただいま。 | |
!! | |
……おかえり。 | |
……「世界樹を頼む」だとよ。 | |
え? | |
深王の遺言だよ。 | |
遺言ってことは、つまり、その、あれだよな。 | |
わかってんなら聞くんじゃねえよ。あと、姫様に「すまなかった」ともな。 | |
それって最後に、普通の人間だった頃の記憶を取り戻せた……のよね? | |
多分な。それで何かが変わるわけでもないけどよ。 | |
……何だったんだろうな、俺たちのやってきたことって。 | |
結果だけ見りゃ、人間同士の内ゲバの始末だ。 | |
不毛にもほどがねえか、これって? | |
じゃあ何だ、深都に付いてりゃ良かったともで思ってるのか? | |
もしも深都に付いてたら、姫様を討ち取る事になっていたんじゃないの? | |
そっちも絶対後悔しただろうな……。 | |
この迷宮に関わったこと事態、間違いだったのかも……。 | |
だとしても、まだやんなきゃならないことが残ってるんだよ。 | |
え? | |
……ここに戻るまでに、破壊したはずのオランピアから言付けがあった。 白亜の森のさらに奥の転移装置から、魔の本拠地に行けるんだとよ。 | |
ちょい待ち、何か話がまったく見えないぜ? | |
一体どういうことなの? | |
知るかよ。とにかくそれは世界樹からの伝令だと。それと…… | |
それと? | |
そこに挑むことが、俺に課せられた償いだとな。 | |
あのなあ、そこは「俺に」じゃなくて「俺たちに」って言ってくれよ。 | |
何だ、まだ俺に付き合う気があんのか? | |
当たり前でしょうが! | |
……まあ、そう言うよなお前らなら。 | |
さっきの言葉、そのまま返すぜ。わかってんなら聞くんじゃねえよ。 | |
そういやまだ元老院に報告してねえ。気が重いけど行くか。 |
(やっぱりあれは世界樹に操られていたの?) | |
(そう考える他ないんじゃねえかなあ) | |
今度は姫様に報告だ。行くぞ。 |
(……どういうことだ、これ?) | |
(確かに自然の摂理に背いたことをしてきたのは確かだろうけどな) | |
(なんかちょっと雲行きが怪しくなってきたわね) |
(その邪悪な力に対抗するために、白亜の森に結界を張り巡らせていたとはな) | |
(邪悪な力って、一体何の事なの?) | |
(世界樹が目の敵にしてる連中の力と考えるべきなのだろうが……) | |
(おいおい、それじゃ魔の力ってことか? 流石にそれは因果にも程があるぜ) | |
(兄は人を救うために人を捨て、妹はその兄を救い出すため人を捨てたか……) |
(話は終わりのようだ……元老院に戻ろう) |
勲章ねえ。んなもんもらったってなあ。 | |
うん、確かに心境としては果てしなく微妙だわ。 | |
結局のところ、深都の主と海都の主、両者の夢が潰えただけだからな。 | |
でもこれが、あたしたちの選んだ道の結末だものね……。 |
ところで姫様はこれからどうするつもりなのかな? | |
……それ以前に、もう長くないんじゃないか? | |
なんつー事を言うんだお前は。 | |
明らかにアルビノだろ、姫様は。普通はそもそも長く生きられねえ。 これまでは目的があったから、無理に生き長らえていたんだろうけど。 | |
それを失ったら、もう無理に生きることもないってこと? | |
あるいは、ようやく人としての終わりを受け入れられると思うべきか。 | |
ったく、本当に後味悪いぜ。 | |
あと悪いけど、ちょっと深都に顔出させてくれないか? | |
……オランピアの事? | |
ああ、どうにも不可解なんでな。 |
他の事は何も覚えていない、か。もしかして、完全に一から作り直されたか? | |
つまり、もうあたしたちの知ってるオランピアじゃないって事? | |
単にプログがぶっ壊したせいで記憶が飛んでるのかもしれねえけど、おかしな気分だぜ。 | |
こんだけのオーバーテクノロジーなんだから、記憶のバックアップぐらいあるでしょ。 だとしたら、意図的に記憶を消して復活させたの? | |
世界樹は俺たちを魔に対抗するための尖兵として選んだんだろうな。 そして、そのために邪魔なものはなかったことにしようとしてるんだろう。 | |
何か……世界樹の掌の上で踊らされてるみたい。 | |
とはいえ、ここで俺たちが手を引くわけにもいかないだろ。 | |
そうだよな、このままじゃこの百年の間の犠牲者が、全部犬死にも同然だからな。 | |
結局、俺たちは先に進むしかなさそうだ。 |