 | あの戦いからしばらく経つが、さて我々はこれからどうしようかな。 |
 | まだまだ街の人たちも依頼を出してきますし、これまでの階層にもまだ踏破しきれてないところが残ってますよ。 |
 | そういや、まだ見ぬレアドロップの類もあるんですよねぇ。 |
 | しかし、肝心のギルド創設者がこの有様ではな。 |
 | ……。 |
 | それにリクもずっと自室にこもって何やら文献を漁ったりしているだけで、ちっとも我々の前に姿を現さない。困ったものだな。 |
 | ああもう辛気くせえ、ちっとは気分転換に迷宮に出ましょうや。 |
 | 悪い、ちょっとそんな気分になれなくてよ。 |
 | 仕方がないな。我々は五人揃って戦わなければこの世界樹の迷宮に太刀打ちできないのだ、どうにか早く踏ん切りを付けて…… |
 | みんなここに集まっていたか。ちょっと話したいことがある。 |
 | ……一体何の話だよ。 |
 | その前に今までずっと篭もりっぱなしで我々を放っておいたことを詫びたらどうだ。 |
 | ああ、それは悪かった。いや、この世界樹の迷宮とヴィズルについて、どうしても腑に落ちないことがあってね。 |
 | え、それってどういうことですか? |
 | 確かヴィズルがみんなに語った動機は、「樹海の秘密を守ることで街の発展を継続させる」だったよな? |
 | おう、そういう事を言っていたぜ。それを俺たちは叩き壊したわけで…… |
 | そこがどうにも引っかかるんだ。ずっとこの世界の再生を見守ってきたほどの者が、たかが街一つの繁栄のために冒険者を犠牲にしようと思うか? |
 | んー、言われてみれば。でもいい加減、心を落ち着ける場所を探していたって気もしますぜ。 |
 | その点については私もアポロと同意見だな。せっかく再生した世界で自分が中心となる街を築いたのだ、それを守ろうというのは気持ちとしてわからなくもない。そこまでするほどの事かといわれると悩むが。 |
 | じゃあ聞くけど、それならなんで迷宮を踏破可能にしておいたんだ? どうもごく僅かな例外を除いてモンスターの生息区域はせいぜい1階層にとどまっているんだ。第3階層あたりに強力なモンスターが生息できるようにしておけば、そもそも俺たちは踏破不能だったはずだ。 |
 | む、確かにその通りではあるな。世界樹と一体化したという力があれば、確かに生態系を操作することも可能だろう。 |
 | 言いたいことがわからぬではないが、真意を計りかねるな。 |
 | いい加減に核心を話してくれよ。俺はお前みたいに頭良くないんだからよ。 |
 | そう焦るなよ。それと俺たちがこの街に来て世界樹の迷宮の探索を初めて、最初に出くわした階層のボスは何だった? |
 | スノードリフトですね。そいつに冒険者が襲われるようになってしまって、それを退治してくれっていう。 |
 | そうそう。それで次の階層に行ったら、ケルヌンノスとかいうモンスターが居座るようになったせいでその先にたどり着ける冒険者が居なくなったとかなんとか。 |
 | そういう経緯であったようだな。今となってはヴィズルが裏で糸を引いていたと考えるのが筋か。 |
 | ああ、俺もそう思うぜ。それで、それが一体どうしたんだ? |
 | ちょっと時系列を整理しようか。古い順に話を並べるとこうなる。 |
 | で、これがどうしたってんだよ。 |
 | 気がつかないか? 時が経つに連れ、新たな階層に居座るボスが明らかに弱体化してるんだ。 |
 | それはそうなのだが、一体そこからどういう結論を導き出せるというのだ? |
 | ……奴は、本当に世界樹の秘密を守りたいとだけ考えていたのかな? |
 | おい、一体どういう事だよ? |
 | あくまでも仮定の話だけど、もしかしたら奴は世界樹を完全に制御下に置けていなかったんじゃないか? |
 | 確かに、完全に世界樹を制御できていたという証拠もないのだが、仮にそうだとしたらどういう事になるのだろうな。 |
 | まさかと思うけど、奴は誰かに迷宮を踏破させようとしていたとか言い出すなよ。 |
 | いや、そのまさかだ。恐らく奴は世界樹を完全に制御できず、どこかに制御不能な場所を抱えていたんじゃないかな。そこを下手に暴きたてられて全てが瓦解しては困るが、そのまま放置するには危険過ぎる。自分を打ち倒せるものが現れればそれでよし、そこに至らないようであれば街を守ることでどうにか樹海の暗部に触れるものを防ごうという思惑があった、そう思ってるよ。 |
 | ……じゃあ、これまで倒してきたモンスターとか、モリビトってのはまさか。 |
 | あたし達が成長するための生贄じゃないですか、それじゃ。 |
 | あまりとえばあまりですけど、それが正解とも思えますねぇ。 |
 | いやいやいや、ちょっと待てよ。もしその話でビンゴだとしたら! |
 | ノンビリしている暇はないな。みんな早く準備を整えろ、奴の居た広間が怪しい。 |